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希望燃ゆ 諏訪の里

希望燃ゆ 諏訪の里 [第6回] 4.二貫寺の森と動植物


二貫寺の森管理棟

 

二貫寺の森
「二貫寺の森」は、上真砂、杉野袋、下百々地内にまたがる飯田川の氾濫や蛇行によって形成された氾濫原にある。平野のほぼ中央部に残された河畔林(かはんりん)は、ハンノキ、オニグルミ、トネリコなどの落葉広葉樹林となっているほか、スギ人工林も広い範囲を占めている。この林には、飯田川上流部に生育している山地性の植物も数多く見られる。また、旧河川(古川)の水辺や草地など多様な自然環境が残され、この環境に依存した多くの生物が生息している。これまでに維管束植物408種、昆虫208種、鳥類74種などが確認されている。

地名「二貫寺」は、かつてこのあたりにお寺があったという言い伝えにちなんでいる。この付近は、薪や落ち葉を集める場として、また「カヤ葺き屋根」の材料を刈り取る「萱場(かやば)」として利用される、いわゆるヤマ(里山)であった。また、杉野袋耕地の一部で畑作が行われ、高田農業高等学校の実習農場(24,232㎡)が置かれていた。「1969(昭和44)年11月04日 杉野袋農場、農機具実習棟新築工事完成する」と90周年記念誌『農本』に記載されている。その後、1990年代に上越市は二貫寺の森に野球場の建設を計画、用地確保を進めた。杉野袋農場は上越市土地開発公社が取得、津有農場に移転した。上越市土地開発公社が求めた野球場建設用地は、野球場建設計画が水泡と化したのちに「自然公園、里の子どもの国構想」の中で「二貫寺の森自然環境保全地域」(市民の森)に指定され整備が行われた。管理棟の設置された中央部には草地の広場が維持され、林内には遊歩道が整備されて、全体を歩いて回ることができ、年間を通して様々な動植物が観察できる。管理棟にはトイレや各種活動に利用できる広い部屋があり、中央部の草地には「ともだちハウス」とよばれる秘密基地のようなツリーハウスがある。地域の方や上越市によって定期的に草刈り、柴刈りなどの整備が行われている。

自然環境保全地域 区域図

 

ともだちハウス

 

春の植物 
春先に、ハンノキやオニグルミが葉を広げる前の明るい林床にキクザキイチゲやミチノクエンゴサクといった春植物の花畑が見られる。スプリング・エフェメラル(春のはかなきもの)と英語では表現されるように落葉広葉樹の芽吹き前に葉を広げて花を咲かせ、樹木が葉を広げ林床が暗くなる夏までの間に光合成をして栄養を貯える。春のわずかな期間にしか見ることができない美しい景色である。

春植物が終わる頃、草地や日当たりのよい遊歩道周辺にたくさんの黄色い小さな花が目立つようになる。ウマノアシガタ、キツネノボタン、ヘビイチゴ、オヘビイチゴ、ヒメヘビイチゴなどである。キンポウゲ科のウマノアシガタやキツネノボタンは花弁に独特の光沢がある。オヘビイチゴは群生を見ることができるが、上越市ではやや稀な植物である。名前の由来は同じバラ科のヘビイチゴに似ていて、大きいことから雄をつけて雄蛇苺となったとされる。しかし、ヘビイチゴやヒメヘビイチゴのように膨らんだ赤い実はできない。

少し視線を上げると樹木に白い花が密集して咲いている。バラ科のウワミズザクラ、スイカズラ科のカンボク、マルバゴマギ、ケナシヤブデマリなどである。ウワミズザクラは杏仁香(あんにんご)ともよばれ、花が咲く前の若い花穂を塩漬けにして食用とする。杏仁とは杏仁豆腐に使われる杏仁のことで、香りが似ていることから杏仁香といわれる。マルバゴマギはゴマギという名の通り葉を揉むとゴマのような香りがする。カンボクは上越市ではやや稀な植物であり、ケナシヤブデマリと花がよく似ているが葉の形が異なる。ケナシヤブデマリの葉は裂けないがカンボクの葉は3つに深く裂ける。ほかにもオオタチツボスミレ、ムラサキケマン、ムラサキサギゴケ、カキドオシ、キンギンボクなど春に開花する植物はとても多く、冬を越した植物たちの生命力が感じられる。

 

夏の植物
夏になると山地性の植物の開花が始まり目立つようになる。ユキノシタ科のトリアシショウマ、ゴマノハグサ科のクガイソウ、ユリ科のオオバギボウシ、コバギボウシ、オオウバユリなどである。トリアシショウマは芽生えが鳥足状に分かれていることから名前がついたとされる。芽生えは山菜として食用となる。クガイソウは葉が茎に輪生する節が9個(九階)あることから名前がついたとされる。実際に観察してみると、地上近くの葉は枯れていることもあるが、大体の個体で輪生葉が9節についている。オオバギボウシ、コバギボウシの擬宝珠(ぎぼうし)とは橋の欄干についている玉ねぎのような形をした装飾具のことで蕾がこの形に似ていることが名前の由来だという。葉の大きなオオバギボウシは山菜名をウルイといい、食用となる。葉の小さなコバギボウシは管理棟近くの遊歩道から見える林床に群生しており一斉に花が咲き大変美しい。オオウバユリは遊歩道を歩いていると背丈も高く、葉も花も大型で非常に目立つ。ウバユリの変種で大型であるためオオウバユリとよばれる。北日本の日本海側で大型化する傾向のあることが知られており、積雪との関係が注目される植物である。





また、遊歩道沿いにはユキノシタ科のエゾアジサイが多く生育し、その花の色は青味が強いものから紫に近いものまで様々に変化があって美しい。さらに、白花の背の低いアジサイかと思いよく見ると、同じ科のクサアジサイというアジサイによく似た花を咲かせる高さ20~80㎝くらいの草本植物も生育していることに気づく。上越市では稀なゴマノハグサ科のオオヒナノウスツボも見ることができる。名前は、ヒナは花が小さいこと、ウスツボは花の形が臼や壺に似ていることに由来し、1ⅿ以上にも大きくなるためオオヒナノウスツボとよばれる。そのほか、クサネム、オオマルバノホロシ、キオン、スイカズラ、ヒロハテンナンショウなど多くの植物が様々な場所で花を咲かせ、植物のたくましい成長が見られる。


秋の植物
夏の終わりころからツリフネソウ科のキツリフネやツリフネソウの群生が遊歩道沿いの林床でたくさん見られる。黄花のキツリフネの方が花期が少し早く、その後に紫花のツリフネソウが咲きだす。漢字で釣船草と書き、その名の通り船がぶら下がったように見える花が特徴的である。キク科のダキバヒメアザミも鮮やかな紫色の花を咲かせて遊歩道沿いのいたるところに生育する。花期が長く夏から秋にかけて見ることができる。葉の付け根の部分が茎を抱く特徴が名前に表現されている。キク科の植物はノコンギクやアキノノゲシ、ユウガギクなど多くが秋に開花して目を引き、イヌタデ、ハナタデ、ミゾソバなどタデ科の植物も多くの種類が花期を迎えて林縁がにぎやかになる。また、樹木でもカキノキ、オニグルミ、クリ、アケビなど食用となる果実をはじめ、コナラやカエデの仲間など多くの種類が果実を成熟させ、里山は実りの季節を迎える。



 シダ植物
ワラビやゼンマイを含む多くのシダ植物が林床や林縁、草地に生育している。上越市では稀なタニヘゴが林床に多く見られ、羽状に切れ込んだ大きな葉を放射状に広げる姿は印象的である。フユノハナワラビは細かく切れ込んだ三角状の葉をもち、その根元から花穂のような黄色く成熟する胞子葉をつける面白いシダ植物である。

動物
昆虫では、人工池周辺でシオカラトンボ、ハグロトンボなどのトンボ類、草地や周辺林縁でエンマコオロギ、スズムシ、オンブバッタなどバッタ類や、モンシロチョウ、ミドリヒョウモンなどのチョウ類などが生息している。鳥類ではキジ、ウグイス、シジュウカラなど、哺乳類ではノウサギ、キツネ、タヌキ、テンなどの生息が確認されている。また、カナヘビなどの爬虫類やアマガエル、クロサンショウウオなどの両生類も見ることができる。


※引用・参考
・長谷川康夫『里のこどもの国 植物ハンドブック~二貫寺の森の植物に学ぶ~』上越市(2008.3)
・『農本』高田農業高等学校卒業生会代表 松苗一正(1990.12.26)
・『上越市自然環境保全地域 二貫寺の森 自然観察ガイドマップ』上越市
・『平成23年度自然環境保全及び鳥獣保護のための調査業務委託報告書』上越市・一般財団法人上越環境科学センター(2011.12)

※この項は、小林孝俊氏(上越教育大学大学院)に作成していただいた。また、五百川裕教授のご協力をいただいた。