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希望燃ゆ 諏訪の里

希望燃ゆ 諏訪の里 [第34回] 27. 農業神としての宇賀神社と戸隠神社

宇賀神社、戸隠神社は、村方に末社がない。このことは諏訪社や神明社との大きな違いである。だが、多くの家々の神棚には「宇賀神社大麻」「戸隠神社祈祷之璽」が祀られている。

■ 宇賀神社

用水の神 中江用水の開発・整備とともに、この地域の農業生産力が高められ、人口が増加していった。耕地の増大、人口の増加の中で、中江用水の水量は必ずしも潤沢といえず、時には著しい水不足を呈することがあった。用水の確保は、地域にとって極めて重要な課題であった。用水開発・確保への努力とともに、用水確保を祈る神が必要になった。中江用水の水源として、野尻湖湖水は地域にとって「命の水」であり、人々はそこに鎮座する宇賀神社に祈ったのである。

宇賀神社説明書きは、由来を次のように示している。
宇賀神社は、創建天平2(730)年とされ、倉稲魂命(うがのみたまのみこと=五穀の神様)と市杵島姫命(いちきしまひめのみこと=弁天様、 水・福徳の神様)の二柱の他、天照大神、大己貴神(おおなむちのかみ)をはじめ13柱を合祀している旧社格では郷社にあたる。
平安、鎌倉、室町を経て、戦国時代に及んで神徳の発揚とともに武家の崇敬も厚く、武運長久の祈願所ともなり、寛永5(1628)年、松平家より社紋「立葵(左離れ)」を給わり、また野尻湖の水を灌漑に利用する高田藩下住民からも厚く信仰されてきた神社である。

多くの人が祈り、感謝した代参 「宇賀神社大麻」と書かれた「御札」が神棚に祀ってある家も多いことと思う。宇賀神社は、野尻湖の中ほどにある琵琶島(弁天島)に祀られている。古くから、中江用水の恩恵を受ける村々は、8月27,28日に行われる宇賀神社の祭礼に代表者を送り参拝(代表者参拝=代参)し、野尻集落の人々に野尻湖利水について感謝してきた。一時は「御札」を1,000枚もとったこともあるという。夜の盆踊りにも参加したという。戦後は、100人以上の人が参拝し同宿できず、小松屋と藤屋に分宿した。(「関川水系農業水利実態調査書」金沢農地事務局 1958年)
河川統制事業終了後の代参 1985(昭和60)年からは、代表者参拝への一般組合員の参加が可能になり、参加者の数は200人近くになった。このため野尻湖湖畔での宿泊は困難となり、湯田中温泉に宿泊した。多くの代表参拝が行われる中、1995(平成7)年に野尻湖河川統制事業が終了、管理は国の直轄管理へと移行する。野尻湖河川統制事業が終了、土地改良区の負担軽減などの事由によって、代参の見直しが図られる。こうして1996(平成8)年からは日帰り、参加対象を町内会長、総代、役員に限定した。さらに、1999(平成11)年からは参加者を、役員のみとした。このことで、代参参加者は10人程度となった。希望に応じて数年に一度は参加対象を拡大しての代参も行われてきたが、次第に代参意識は低下している。 大規模圃場整備事業の進行、米作の生産形態の変化、実質耕作者の減少の中で、農業用水を祀る宇賀神への畏敬・必要感が失われつつあり、「御札」を求め、神棚に祀る家は減少している。「御札」は、関川水系土地改良区で取りまとめている。

■ 戸隠神社

農業神としての信仰 戸隠権現もまた、頸城の人にとって雨乞いの神様である。頸城地方の各地区には戸隠講があり、中社に代表参拝し、豊作を祈願し「戸隠神社祈祷之璽」と記された「御札」と「御神籤」をいただいて持ち帰った。近年は、郵送でとどける場合や、講の解散で個人的に御札を送付する場合も増加しているという。
中社の祭神 中社(ちゅうしゃ)は、1087(寛治元)年に現在地に鎮座、宝光社と同時期に奥社の相殿として創建されたといわれている。現在の祭神は天八意思兼命(あめのやごころおもいかねのみこと)で、天照大神が天岩戸に隠れたとき岩戸神楽(太々神楽)を創案し、岩戸を開くきっかけを作ったとされる神である。このため、知恵の神、学問の神ともされる。転じて、農作業の守り神、水不足の解消に霊験のある農業神として信仰された。かつては、雨乞いのために中社に行き、お参りをしたのち神水を持ち帰り畔に撒いたという。途中で雨が降ると水を空け、お礼参りに中社に参詣したということもあったと伝えられている。
諏訪地区の戸隠信仰 諏訪地区の幾つかの集落では、かつての戸隠講を受け継いで、代表の家が戸隠神社中社から「御札」と「御神籤」を請け、各家々に届けていた。しかし、かなり以前から代参、代表者という「講」の存在を伝えるものは無くなり、かろうじて米岡新田で、代表者が中社から受けた「御札」を各家々に届け、神棚に祀って五穀豊穣を祈っている。また、戸隠神社から御札が、希望する家に直送されているところもある。最近は、「戸隠神社祈祷之璽」を受けない家が増加している。核家族化、信仰心の希薄化が進む社会のなかで、くらしの中の信仰も変化してきている。

※ 引用・参考
・『新編中江用水史』454-455 中江土地改良区(2006.2.28)
・『上越市史 通史編4 近世Ⅱ』716-717 上越市(2004.3.31)
・ウィキペディア「戸隠神社」   ・ 戸隠神社ホームページ